さまざまな産業で活用が進んでいるドローンは、その中でも農業分野における活躍が顕著です。農業は特に後継者や担い手の不足から、省人化や業務効率化が求められており、人間の代わりとなって作業できるドローンは頼もしい存在です。
また農業にはさまざまな作業がありますが、その中でもドローンを活用した農薬の空中散布での活用が進んでいます。その際、注意しておく必要があるのが、ドローンで空中散布可能な農薬を確認した上で散布することです。実際に農薬は人体に悪影響を及ぼす可能性もあるため、本記事を参考に注意して散布するようにしてください。
農業における農薬散布と聞いてまずイメージするものといえば、除草剤ではないでしょうか。そもそも除草剤とは、農薬の1つであり、主に植物を枯らすために用いられます。
ただし一括りに除草剤と言っても、その種類は2種に分けられます。1つ目が接触した植物全てを枯らす非選択的除草剤、2つ目が対象とする植物のみを枯らす選択的除草剤です。
また除草剤で植物を枯らす際の仕組みには、主に次の3種類が挙げられます。
です。
このように除草剤には、その枯れさせる対象や仕組みによって分類できます。農業で除草剤を使用する際には、これらの種類について押さえておきましょう。
除草剤と農薬を混同してしまうケースもありますが、間違って散布したり、思わぬトラブルを避けるためにも、除草剤と農薬の違いについて確認しておきましょう。
基本的に農薬という大きな枠組みの中に、除草剤が含まれている形です。つまり、除草剤は農薬の中の1つということになります。
ただし実際には農薬ではない除草剤も存在しており、人が栽培・管理している農作物がある場所では、農薬として登録されている除草剤のみ使用可能です。そのため販売者は農薬でない除草剤には「農薬として使用できない」旨の表示が義務づけられています。
また農薬取締法の改正により、農薬ではない除草剤を農作物などに使うと、法律違反となります。また3年以下の懲役、100万円以下の罰金、場合によっては両方が科せられることになりますので、利用者は注意して扱う必要があります。
通常、農薬は、有効成分をムラなく農作物に散布させることができるように、有効成分にさまざまな補助剤などを加えた形で販売されます。
粒子状になった農薬を「粒剤」、粉状のものを「粉剤」、液体状のものを「液剤」などと呼び、この形状での分類を「剤型」といいます。
除草剤に多い剤型は「粒剤」と「液剤」で、剤型によって特徴や効率的な散布方法に違いがあります。
粒剤の除草剤は、主に雑草の根から有効成分を吸収させるもので、雑草が生える前に、雨上がりなどで圃場が湿っているときに散布すると効果的です。
また、液剤の除草剤は、主に雑草の葉や茎から有効成分を吸収させるもので、生えている雑草の葉や茎に対して散布するので、散布後しばらく降雨がなさそうなタイミングなどに散布すると効果的です。
農業用ドローンで除草剤を散布するメリットは、なんといっても作業効率が高いことが挙げられます。
ブームスプレーヤー(動噴)を使って除草剤を散布する場合、大きなブームスプレーヤーは小さな圃場には適さないし、重たいブームスプレーヤーを引いて隅々まで散布するのは重労働です。
さらに、圃場がぬかるんでいると走行・歩行も困難になります。ですが、農業用ドローンを用いることで、圃場の大きさや状態を問わず、労力をかけずに隅々まで散布することが可能になります。
また、空中を飛行しているドローンから除草剤を散布するので、作業者が圃場に入る必要がなく、作物を傷めずに済むこともメリットです。
一方、農業用ドローンで除草剤を散布するデメリットは、空中散布が可能な除草剤を選定しなければならないことです。
農業用ドローンの活用が進んでいくにつれ、空中散布が可能な除草剤の種類も比例して増加していますが、今まで使っていた薬剤が農業用ドローンでも利用可能かどうかはわかりません。空中散布が可能かどうか、事前に必ず確認してください。
そもそも農薬や除草剤は、安全性の面から厳格な規制が設けられていました。しかし昨今はドローンの活用が進むにつれ、農薬や除草剤の扱いも以前よりは緩和されつつあります。とはいえ、農薬や除草剤の空中散布には危険が伴うケースもあるので、散布可能なものとそうでないものを理解しておくことが重要です。
またドローンで空中散布可能な農薬や除草剤は、農林水産省の使用基準によって判断され、農薬取締法に基づき登録されています。そのため農林水産省によって登録されていない農薬は使用できません。
さらに登録されていても、その作物名や使用期限、使用量、使用方法などの使用基準を守り使用する必要があるので注意しましょう。
2023年4月現在のドローンに適した農薬の数は、以下のようになっています。
作物分類 | 登録数 |
---|---|
果樹類 | 128 |
野菜類 | 268 |
いも類 | 149 |
豆類 | 130 |
サトウキビ | 114 |
てんさい | 363 |
稲 | 587 |
麦類 | 239 |
はとむぎ | 39 |
とうもろこし | 160 |
飼料作物 | 6 |
樹木類 | 319 |
芝 | 156 |
実際にドローンで除草剤を使用する際には、農林水産省のホームページで最新の正確な情報を確認するようにしてください。
参考:農林水産省 ドローンで使用可能な農薬
ドローンで空中散布可能な農薬は日に日に増加しており、稲や野菜に使用できる農薬に限っては、それぞれ100種を超えています。そうした農薬を調べる際には、農林水産省のホームページで公開している「農薬登録情報提供システム」や、一般社団法人 農林水産航空協会が提供している「産業用無人航空機用農薬」のサイトを確認してみましょう。ドローンに適した農薬を検索できます。
農林水産省:農薬登録情報提供システム
一般社団法人 農林水産航空協会:産業用無人航空機用農薬
現在はドローンにおける規制が緩和され、ドローンを飛ばすだけであれば、航空法に基づいて国土交通省の許可と承認を得るだけとなっています。しかし農薬散布のためにドローンを飛ばす場合には、航空法と農薬取締法の適応を受けるため注意が必要です。
ドローンで農薬散布するためには、航空法の「危険物輸送」と「物の投下」の項目に該当します。国土交通省の許可と承認を得るには、「10時間以上の飛行経験」「5回以上の物件投下(水、農薬など)の経験」が必要です。
ドローン飛行に関する法律「航空法」を徹底解説!の記事はこちら
ドローンでの農薬散布は航空法の他に、農薬取締法にも該当します。そのため農薬ラベルに記載されている使用方法を守る必要があります。上記でご紹介したように、散布可能な農薬を確認の上、使用してください。
農業用ドローンで除草剤を散布した後は、機体のメンテナンスを必ず行うようにしてください。
タンク等に散布した薬剤が残っていないか、次に使用するときに薬剤が混ざらないように、きれいに清掃しておきましょう。また、機体にキズや汚れがないかどうか、バッテリーは正常かどうかなどもチェックすることで、ドローンのパフォーマンスの低下を防ぎ、長く利用できます。
なお、農業用ドローンで除草剤を散布した後は、「飛行記録」「農薬散布計画」を保管する義務がありますので、こちらも正しく保管しておきましょう。
本記事では農薬と除草剤の違いやドローンで空中散布できる農薬についてご紹介してきました。ドローンによる散布は、農業における省人化や業務効率化に有効な方法です。
しかし農薬の散布は人体に悪影響を及ぼす可能性があるため、その扱いに関しては農林水産省の情報を確認し、間違いのないように使用するようにしてください。